Войти俺は岩城亜久里
そこそこ働いて、そこそこ遊んで、そこそこの生活をして過ごしている。 どこにでもいそうな普通のサラリーマンである。 フツーが一番。 目立つのは面倒である。今日も通勤電車に揺られながら出勤する。
そして自分の役割だけはこなす。 定時になったら、目立たぬようにそろっと帰る。人付き合いもそこそこで、深すぎず浅すぎずの友人関係や仕事関係を保っている。
深入りしてトラブルになるのは避けたいんでね。社畜と言われるほど会社に奉公している訳でもないし、かといってちゃらんぽらんに仕事をしている訳ではない。
ワークライフバランスっていうのかな。 何でもバランスって大事よ。今日も与えられた任務完了して、さっさと家へ帰って筋トレして、風呂入ってから、ゲームでもするか。
朝の通勤電車の中でそんなことを頭に思い浮かべながら出勤をしていった。 ~数日後の休日~昨日の夜に動画を見ていたら、海ではしゃいでいるシーンがふと目に留まった。
まだ夏には早いけど、今日は休みだし、一人で海へ行ってみるか。愛車の軽自動車に最低限の荷物を積み、海へと向かう。
そういえば、最近あまり遠出はしていなかったな。 インドア派だし、そんなに外へ出なくてもね。 家でゲームしたり、動画見て過ごせる。 外に出る必要性は感じないけど、たまには外に出なくちゃね。窓を開けると海風が心地いい。
しばらく走っていると足跡もない白い砂浜が見えてきて、テンションがあがった。 近くに車を止めると、ビーサンに履き替えて、海へと突っ走っていく。「冷たっ」
さすがに海の水は冷たく、思わず声が出てしまう。
しばらく波打ち際を歩いていたが、少し先の海の中が一瞬何かが光ったように見えた。「なんだろう」
光が気になり、その方向に近寄っていく。
すると、潮の流れが急に早くなったのか、足が引っ張られる。 片方の足で踏ん張ってはみるものの、引っ張る力は強く、なかなか抵抗が出来ない。 みるみるうちに、海の中へ引きずり込まれてしまう。 もがけばもがくほど苦しくなる。「もうダメかも。このまま死ぬのか……」
そのまま意識が遠のいていった。
はっと目が覚めると、そこは見覚えがない天井だった。 周りを見回す。 石で作られた壁や柱。 天蓋付きのベッド。 見たことがないものが並んでいる。ベッドから起き上がり、窓際に行く。
閉まっていた窓を両手で押す。 まぶしい光と共に、外の景色が目に入る。そこにはレンガや土壁の家々が立ち並んでいた。
その向こうにはぐるっと囲うように壁が立っている。 その奥には森や草原が広がっていた。 市場からは威勢のいい声が響き渡っている。よくアニメやマンガで見ていた世界のような所だ。
俺は夢でも見ているのか? 確か、海へ遊びに行って、海の中でおぼれて…… それから、どうしたっけ? 腕を組み、上の方を向きながら考えていると、ノックの音が聞こえてきた。押し黙って静かにしていると、さらにノックする音が聞こえてきた。
俺はふーっとため息をつきながら、仕方なく応答する。「はい……」
扉を開けて入ってきたのは、メイド服の女性だった。
「お目覚めになられましたか」
まだうまく状況が呑み込めていない。
混乱した中、メイド服の女性に返答をする。「えーっと、誰?」
きちんとした姿勢のメイド服の女性が、きょとんとした顔をして受け答えをしはじめた。
「私ですか? 私は貴方様のお世話を仰せつかっているマリアと申します」
落ち着いた声のメイドだ。
俺が目覚めたことにホッとした様子で、さらに話を続けた。「ようやくお目覚めになりましたか。
召喚されてからずっと寝たままで、心配をしていました」用意してあるコップに水を入れ、俺に手渡してきた。
今は他には誰もいない。
どういう状況ののかはまずはこの子に聞くしかないと思った俺は、マリアに話し始めた。「ここはどこなんだ?
なぜ俺はここにいるんだ?」なんとも言えない怒りのようなものも込み上げてくる。
そのためか、一気に息を吐くように喋ってしまった。「まずは落ち着いていただけますと……」
少し眉をひそめ、困った表情を浮かべるマリア
そしてゆっくりと話し出す。「ここは、アウレストリア王国の首都セントハムになります」
さらに落ち着いた口調で話を続けてきた。
「貴方様は、この国を守る勇者様として、召喚されました。
召喚直後に気を失われてしまい、国王様のご命令でここで私が介抱をしておりました」王国?
召喚? 勇者? 現代とは思えない単語が並ぶ。 …………?ここは、今までいたところと違うところなのかもしれない……
どうやら、俺は現代とは違う世界に召喚されたらしい。 アニメやマンガでよく見た話だが、本当にそんなことがあるのか……ああいうのは、現代で不遇な主人公が死んで、転生して異世界で無双するって話だろ。
でも俺はそこまで不遇だとは思っていないし。 あれは不遇じゃないとならないんじゃないのか。 (※あくまでも個人の感想です) どうしたらいいか不安にかられる俺は、再度マリアに思いをぶつける。「それで、俺はここでどうなるんだ?
俺はそれなりに楽しく暮らしていたんだよ! その生活に満足していたし、よくある異世界転生者の前世とは違うんだ! 頼むから帰してくれよ!」まくし立てるように、マリアに突っかかっていった。
「そう、仰られても、私にはわかりません……」
話しながら、マリアは顔をそらした。
そして、ため息をついた後に、話を続けた。「ここに呼ばれた経緯に関しましては、国王様がお話しくださると思います。
まずは目覚められたことを国王様にご報告してまいります。」俺から、二歩三歩離れると、入口の扉に向かっていった。
怒りをそらされてしまった。
やり場のない怒りが心の中を覆う。 本当に違う世界へ来てしまったのだろうか。 こういう場合、頬を抓って夢かどうか確認するというのがあったな。 やってみるか……「痛っ」
抓った頬が赤くなってきた。
どうやら、本当のことらしい。だとすると、よくあるアニメ通り、強くなって無双して、あれ俺何かやっちゃいましたかってなるのかな。
ただ見た目は変わってない。 そんな力もついている感じもしない。 謎だらけだ。 とにかくマリアが来るまで待って、国王と話をするしかなさそうだ。しばらくすると、マリアが入ってきた。
「国王様がお呼びです。
玉座の間に来て欲しいとのことです」とにかく会ったら、いろいろと聞こう。
そう考えながら、身支度をする。 準備をし終わると、外で待っていたマリアの後についていった。シータの長々と話したていたが、ゾルダの一喝で転移の魔法の起動に入った。「ゾルダもそんなに無碍に扱わなくても……」まぁ、シータも調子に乗っていたのも確かだったけど、そんなに怒らなくてもいいのではと思った。「あいつは話を始めたら長いんじゃ。 さっきの分はワシからの命令だったしのぅ。 その話までは我慢してやったんじゃ。 ワシも度量が大きいじゃろ?」「それにしても止め方ってものが……」しばらくすると低いブーンとした音が聞こえてきた。 そろそろ転移が起動しそうだ。「そろそろ行きますの」シータがみんなに声をかけると、上から魔法陣が降りてきた。 俺たちに降り注いだ魔法陣が下に降りたころには、転移先に到着していた。 着いてすぐにゾルダが浮遊魔法で移動し始めた。 他のみんなもつき従っていく。 俺も慌てて走り始めた。「? ここはどこ? どこに転移した?」周りを見渡しても俺の知っているところではなさそうだ。「あらあら。 ここに来たのね」ヒルダがぽつりと口にした。 どうやらヒルダは知っているところのようだ。「なぁ、ゾルダ。 ここはいったい……」「まぁ、行けばわかるのじゃ。 まずは急ぐのじゃ」なんかもったいぶる言い方だな。 弟のことが心配のは分かるが、事情が一番わかってない俺に説明をしてくれてもいいじゃないか。 でも、すぐには説明する気はなさそうだ。 とりあえず分からないことが多いけど、ついていくしかない。長い廊下を進んでいき、大きな扉の前に着いた。 それにしても大きな城のようなところだ。 弟はいったい何をやっている奴なんだ? ゾルダが元魔王だし、魔王軍の幹部か何かかな? でも、ゾルダが追い出されているんだし、その家族だし、不遇な状況な気がするけど……「ここの奥にゾルダの弟がいるのか?」「たぶん、いるんじゃないのかのぅ。 ここが大好きな奴じゃしのぅ」周りにいたセバスチャンとシータが扉の前に立ち、取っ手を持ち引き始める。ギギギギッ――あまり手入れされていないのか軋んだ音が蝶番から聞こえてくる。 二人が扉を開け終わると、その向こうには大きな空間が広がる。 そして奥には豪華な玉座とそこにぐたっと座る男が居た。「やっぱりここに居ったか」「……っつ……お前……何しに来た」苦虫を噛み潰したよ
ゾルダ様も人使いが荒いというかなんと言うかの…… おいどんも頑張ってあのラファエルとクラウディアを追い詰めて捕まえたのにの。 すぐに転移魔法使えとおっしゃる。 少しぐらいはおいどんを気づかってくれてもいいのにな。 心の中でそんなことを考えていたら、坊ちゃんがおいどんの方へと近づいてきた。「シータ、ごめん。 一緒に戦うはずが、途中からあの二人任せっきりになっちゃって」「いや、お気遣いなく。 もともと一人で相手するはずだったからの」「ゾルダも弟のことが気になるんでしょ? せっかくラファエルとクラウディアを捕まえたシータに、さらに無理言って」坊ちゃんはおいどんのことを気づかってくれておるのかの。 それともおいどんに顔に出ておったかの。 そうであれば気をつけないといけないの。「ゾルダ様はいつも通りだとは思いますがの。 それでも坊ちゃんだけにでも気づかってもらえたのは嬉しいですの。 ところで……おいどんの戦いぶりはどうだったですかの?」「ごめん、こっちもいろいろとあったので、しっかりと見ていなかった」「ならば、おいどんがどうやってラファエルとクラウディアを捕らえたかをお聞かせしましょう」おいどんは見ていなかった坊ちゃんのために二人との戦いを振り返り始めた――『ゼド様は私たちに何をお渡しになったのですか……』『あれー? またおばさんが増えたじゃん ウケるー』ラファエルとクラウディアはどうやらあの仕掛けを知らなかったようですの。 おいどんたちも封印されていたのであれば、ヒルダ様も当然こうなっているのはわかるがの……『おい、お前らはこのことは知らなかったのかの?』『知る訳ねーじゃん。 ゼド様が勇者に渡せっていうから持ってきただけだって』『何かしらゼド様が考えていらっしゃることは分かっておりましたが……』どうやら策があるというぐらいの事しか知らなかったようですの。 しかし、あのヒルダ様の様子は少し違う感じがするの。 ゼド坊ちゃんが何か考えていると言うのであれば、何もないってことはなさそうですの。ヒルダ様と坊ちゃんの心配をしていたおいどんに対してラファエルは『余裕ですね。 今は私とクラウディアの相手をしているはずですよ』と言い、連続で火炎魔法を唱えてきた。『余裕ではないがの。 気になって見
は……恥ずかしいったらありゃしない。 なんで罵倒なんかしないといけないんだ。 俺はSでもMでもなくノーマルだって……覚悟を決めて言ってはみたものの、顔から火が出るような思いだった。 ヒルダが倒れたからよかったけど、これで何の効果も無かったら……ちょっとぞっとする。 ゾルダにもいろいろと突っ込まれたが、恥ずかしくてまともに顔も見れていない。 知らず知らずに、顔を手で覆っていた。 その時「アグリ、危ないのじゃ!」ゾルダの大きな声が聞こえてきた。「何が危ないって……」覆っていた手を外すと、ヒルダの上に固まっていた紫の霧が鋭い刃となり俺の方へ向かっていた。「うぁーーーー」突然の出来事に叫んで腕で顔を隠して身構えることしか出来なかった。 鋭い紫紺の殺気が俺の肌を刺すような感覚を感じる。 俺はこのままやられてしまうのか……バチーン――大きな音と共に濃紫の塵が飛び散った。 もうこれで終わりか…… 呆気ないなかったな、俺の人生も。 結局魔王だって倒せなかったし。 残されたゾルダたちはまた封印されてしまうのだろうか……などとあれこれ考えていたが、痛みが全然ない。 ふと顔を上げると目の前に居たのは、さっきまでそこに倒れていたヒルダだった。「あぁあん、そんなに慌てなくてもいいのに、このあわてんぼうさん。 うーん……でもね、あなたの攻めは……あまり美味しくないわ。 そうね……この子の方が…… 考えただけでゾクゾクするわ」紫紺の刃がヒルダを突き刺してはいるのもの、悦に入った表情をしているヒルダ。 俺の方を向くとますます悦に入った顔になっていく。「あ……ありがとうございます。 でも……それ、大丈夫ですか?」その尋常じゃない喜びに若干引きつつも、俺を庇ってくれたヒルダを気づかった。「あら、これぐらい平気よ。 全然足りないぐらいだわ」そう言いながら、濃紫の刃を少しづつ抜いていく。 俺から見ると痛そうに見えるその動作も、ヒルダは喜びながら行っていた。「姉貴、正気に戻ったのかのぅ? あやつを助けてくれて、助かったのじゃ」遅れてゾルダが俺の目の前に来て、ヒルダのことを心配していた。「あら、ゾルダちゃんが人の心配をしているなんて珍しいこともあるのね。 しかも名前まで呼んで」ヒルダは無数の紫紺の針たちを丁寧に
「そろそろ正気を取り戻すのじゃ、姉貴」まともに戦えばワシは勝てるじゃろうが、それでは姉貴が無事では済まぬはずじゃ。いつもと違う感じじゃから、姉貴の本意ではないのじゃろう。何かしら細工がされているはずじゃとは思うのだが……「あら、わっちはいつでも正気よ。 狂っているのはお前よ、この脳筋バカ娘!」ただ姉貴の姿を見ても周りを見ても何も感じられぬしのぅ。それともあのゼドが送り込んできた二人……なんと言ったかのぅ……まぁ、名前なぞいいか。あいつらが何かしておるのか……二人がいる方を見やると、まだシータが相手をしておる。それにあれだけ追い詰められておると、こちらにかまけている余裕はないじゃろ。だから、あいつらが何か裏でしているということはないのぅ。「あぁーっ、もう考えても分からんのじゃ。 とにかく、いつもと違うのじゃから、姉貴は正気ではないのじゃ!」そう言いながら、魔法で足止めをしたり、正気に戻るように攻撃をしておるのじゃが……やっぱりこの程度じゃ、姉貴には効かんのぅ。何せあの性格が故に身につけた力じゃから、ある程度のダメージをものともせんからのぅ。とりあえず正気に戻るまではこのままかのぅ。そう考えて、姉貴の様子を伺いながら、とりあえず回避をしておったところに、あやつが割り込んできた。ワシと姉貴の間に入り込んだあやつは顔を真っ赤にしながら立ちふさがっておった。その様子を見てか、姉貴も動きを止めた。「何をしておるのじゃ、おぬしは。 巻き添えを食いたいのか!」あやつを押しのけようと手をだそうとしたところだったのじゃが「と……とりあえず、俺に任せてくれ」あやつの眼も泳ぎ、動揺しておるのがすぐわかったのじゃ。それでも照れくさそうにしている意味がよくわらんがのぅ。「あら、やだわ。 わっちのところへ来てくれるのかしら」姉貴はよく知らないあやつのことを何故そこまで好意を持っておるのかはわからんのじゃが、妖艶な笑顔であやつを見ておる。ますます顔が赤くなるあやつ。「お……おぬし…… もしかして、姉貴に惚れたのか?」「そんなことあるかー! ちょっと思いついたことがあるんだけど、それが恥ずかしいだけだって」あやつはそう言うと、大きく息を吸いこんで吐き出しておる。そして、両手で頬を叩くと、また一歩前にでて姉貴に近づいていきお
ん? 今、一体何が起きた?確かあの時、俺が振った剣がラファエルを掠めた。 今まで空振りだったのがようやく当たって喜んだのもつかの間だった。 その時足についていた鎧が落ちてきたのを拾ったはずだった。 そう拾っただけだったのだが……「なんで女の人に絡まれているんだ?」俺にベッタリと体をつけてガシッと腕を組んで離さない。 痛いぐらいに掴んでいるので、離れることも出来ない。 顔は笑っているものの、目だけが冷たく光って見えていた。「女の人って、そんな他人行儀な言い方はないわね。 わっちよ、わっち」「そんなこと言われても、こっちになんか知り合いはいないし……」俺以外にこっちへ来たって聞いたことも見たこともないから、赤の他人のはずなんだが…… 思わずゾルダの方に顔を向けると、あのゾルダが驚いた表情でポカンとしている。「お前は…… いや、あなたは……」驚いた中でも、何かを話そうとしているようだが、言葉になっていないようだ。「もしかして……ゾルダのお知り合いかなにかでしょうか?」恐る恐る抱きついている女の人に確認をする。 するとその女性は「知り合いも知り合いだよなぁ、ゾルダ!」ドスの効いた声でゾルダを睨みつけている。「あ……姉貴?」ゾルダの口からまたも身内を思わせる一言が出てきた。「えっ? この人、ゾルダのお姉さんなの?」弟が危ないとの話が出てきたと後は、お姉さんの登場か。 いったい何人姉弟なのか?「いや…… 正確には、ワシの父の妹じゃ……」ゾルダが随分遠回しな言い方をしている。 少し気にはなったが、俺は気にせずに「あぁ、おばさんね」と言ったとたん、掴んでいた手の力がさらに入ってきた。「わっちのこと、おばさんって言ったわね。 どうしてくれようかしら」俺の事を睨みつけて顔を寄せ
「先を急ごうとしておるのに、なんかきおったのぅ」シータに言って、転移魔法で移動しようとした矢先に、高速の光がこちらに向かってきおった。 その光がワシらの前で降り立つと、現れたのは……「あなた方にはここで死んでいただきます」「あーしはどうでもいいんだけど、命令だしね。 ちょー退屈なんだよねー」なんかいきがっておるのぅ、こやつらは。 男女の魔族が殺気を立てて、ワシらに立ち向かおうとしておる。「なんじゃ、お前らは? ワシは先を急いでおるのじゃ。 邪魔じゃ、どけ」ワシは少し焦りがあるのかのぅ。 スビモの伝言を思い出す。 弟のところへ、早く行きたいのじゃがのぅ。 イラっとした気持ちを二人の魔族にぶつけていたのじゃ。「そう言われても我々も命令で来ておりますので、どくわけにはいきません」男の方が丁寧な受け答えをしつつも、ワシらの前に立ちふさがる。「そう言われてもじゃ。 ワシにはその命令とやらは関係ないのじゃ」いろいろと言われてもワシは知らん。 右に左に動くものの、その度にワシの前に立ちおる。 いっそのことぶっ倒そうかのぅ。 そう思い始めたら、その男はさっと後方に飛び、少し距離をとりおった。 勘が鋭いのぅ。「ねぇ、おばさんがゾルダ? へぇー、これがあのゾルダって人なの?」ワシを一瞥すると、魔族の男の方に確認をする。 しかし、ワシをおばさんじゃと?「そこの女! よっぽど死にたいのかのぅ」全身に魔力を込めはじめ、一撃くらわそうとしたその時、 あやつが止めに入ってきおった。「ゾルダ、ここでそれは…… 街にも被害が出るって。 ジェナさんにも言われているだろ」ここは街からは少し離れておるのに、あやつは律儀というか細かいのぅ……「少しぐらいいいじゃろ」「それじゃ、次からここにこれなくなるぞ。 祭りが楽しめなくなってもいいのか?」「うむ……それは困るのぅ……」こんな街ぐらいとは思ったが、祭りの出禁になるのはごめんじゃ。「だろ? だからここは我慢な」我慢と言われてものぅ。 うーん、しかし、こやつらは邪魔じゃしのぅ…… どうしたものかのぅ。「あっ。そうだ! シータ、お前がやれ! お前なら、街に被害出さずにやれるじゃろ」ワシはなかなか加減が難しいしのぅ。 シータならその辺りは心







